NGCやPCGSに何度かアンティークコインをグレーディングに出したことがある人であれば一度は経験しているのではないかと思うほど、数字が付かずに戻ってくることが結構あります。
どういったコインが数字がつかない、いわゆるDetails評価となってしまうのか、というものがNGCにしっかり定義されていますので、今回はそこを細かく解説していきます。
1)Environmental Effects 周辺環境からの影響
コインに有害な条件は、不適切な保管容器、極端な熱と湿度、さらには大気汚染物質や塩水などです。沈没船など、海から回収されたトレジャーコインは、環境汚染の被害を受けていることが多く、表面は数値グレーディングの対象外になります。これは化学反応を起こしやすい種類の紙やプラスチック性の保管ケースなどでも起こります。
①BRONZE DISEASE
BRONZE DISEASEは、古代のコインに通常影響を与える銅または青銅のコインに特有の腐食した状態を表す状態です。
②CORROSION
CORROSION(腐食)は、ほとんどの金属で発生する現象ですが、金をプラチナでは起こりません。自然な化学反応で、コインの表面に新しい分子化合物を形成します。腐食が酷い、または魅力的でない場合、コインのグレーディングではDetails判定になります。NGCでは、OBV CORROSION、REV CORROSION、EDGE CORROSION、として部分を特定して表示することがあります。
③ENVIRONMENTAL DAMAGE
表面の損傷の正確な原因が特定できない過酷な保管環境の結果です。
④STAINED
汚れたコインは通常変色はしますが、腐食はしません。多くの場合、その変色は除去できません。片側に限定されている場合は、OBV STAINED や REV STAINEDと表示します。
2)Surface Alterations 表面の改変
全体的な外観を変更する何らかの方法で処理されたコインは、数値で評価できず、Details評価となる。このような表面改変のほとんどは、化学薬品、フィラー、または熱を加えることによって行われている。
①ARTIFICIAL TONING
化学薬品または熱を使用する加速反応プロセスによってコインにトーンをつけていることを示します。不適切な洗浄やその他の表面の問題を隠すためにつけられることが多いが、NCSで問題が解消されることもある。
3)Improper Cleaning 不適切なクリーニング
コインがDetails評価を受ける最も多い理由の一つが、技術不足で不適切なクリーニングによるものです。過去においては、化学的及び機械的な洗浄によってコインの外観を綺麗にしたくなるものであり、それらは広く受け入れられていました。特に古いコインが発見された場合、軽微で非破壊的なクリーニングでは数値によるグレーディングが可能な場合があります。しかし、コインの美観を損なうような粗い洗浄は、Details評価となり、またそのような洗浄は修復できません。
①ARTIFICIAL COLOR
人工的に着色または洗浄された銅貨、青銅貨、銅ニッケル貨を示す。自然の状況下では、ほとんどの銅貨は時間とともに黒くなっていくが、元の「赤」の色を保持しているものは高く評価されている。そのため、「赤茶色(RB)」または「茶色(BN)」のコインの変色を取り除く処理がなされることがある。この場合は通常不自然で人工的な色合いになる。
②BRUSHED
研磨ブラシ等で磨いたコインを示します。その部分によってOBV BRUSHED や REV BRUSHEDで表示されることもあります。
③BURNISHED
より積極的に洗浄している状態で、コインに非常に綺麗ではあるが不自然な光沢を出させている状態です。この行為は、ボールベアリングなどの研磨剤を使用して行われたり、ロックタンブラー内での処理によって行われます。
④IMPROPERLY CLEANED
その行為の種類自体は不明であるが、不適切な洗浄である状態を示しています。
⑤POLISHED
POLISHEDは、Burnishedに似ていますが、Burnished に比べ、研磨作用がそれほど強くない状態を示しています。
⑥SPOT REMOVALS
SPOT REMOVALSは、強い変色や腐食、黒い斑点の未熟な機械的除去を示します。金貨によく見られる赤みを帯びた「銅色の斑点」を未熟な機械的除去をした場合は同様です。
⑦SURFACE HAIRLINES
SURFACE HAIRLINESは、かすかに研磨されたラインで、元の表面が下に残っている場合でもコインの外観を損ないます。これらは通常、布で軽く擦ることによって発生し、その重症度はLIGHT、MODERATE、EXCESSIVEという文字をつけることで完全に説明できます。
⑧WHIZZED
流通したコインを製造当時の光沢に似せるため、高速回転のワイヤーブラシなどによって洗浄した状態。通常この行為は文字で他の刻印が少し歪むため、専門家が見れば簡単に見分けられます。
⑨WIPED
1つ以上の部分の表面にヘアラインがある状態。これは通常、意図的な洗浄によるものではなく、偶発的な誤操作によるものですが、それでもDetails評価になります。NGCではその部分によりOBV WIPED、REV WIPEDと表示します。
4)Mechanical Repairs 機械的な修復
機械的な手段により不適切に復元されたコインは、何らかの形で修復されたと表示されます。多くの古いコイン、特にバストタイプのシルバーダラーとゴールドダラーは、何世代も前にジュエリーとして着用されていました。このため、チェーンに吊り下げるために穴を開けたり、マウントにハンダ付けををすることがよくありました。また一般的に流通によって傷を受けたコインも同様です。数年後、コインとしての価値が出たことにより、様々な手法によって修復されました。多くの場合、とても巧妙な作業によって行われますが、専門家はそれを見抜きます。そしてこれらは数値による評価をつけることはできません。
①CHOPMARK REPAIR
チョップマークが、工具または充填によって、完全にまたは部分的に修復された状態。
②MOUNT REMOVED
そのコインが過去にリングまたはベゼルに取り付けられていたこと、そしてその形跡が残っている状態です。最近のベゼルは、コインにほとんど害を及ぼさないように設定されていますが、古いベゼルの中には圧着により形跡が残るものがあります。
③PLUGGED
ジュエリーとして使用された場合、通常吊り下げるために穴が開けられていますが、それを隠すために修復されています。また穴が開いていた部分で何らかのデザインがあったことにより、修復を隠すため、デザインの再加工がなされています。
④RE-ENGRAVED
刻印または形跡を使用して、摩耗または損傷した部分を再生したコインを示します。部分によってOBV RE-ENGRAVED やREV RE-ENGRAVEDと表示されます。関連する修復としてETCHED STARSがあります。
⑤REMOVED FROM JEWELRY
その言葉のとおりですが、具体的に説明できないような損傷の場合にも使用されます。
⑥RIM FILING
不規則な金属を取り除くため、または縁を均一にするための行われる行為です。通常の流通やジュエリーとして使用していた形跡を隠すために行われます。その部位によってOBV RIM FILED やREV RIM FILEDと表示されます。
⑦RIM REPAIR
自然発生または意図的に与えられた損傷を隠すために行われる行為です。一般的にはピンやリングへのコインの付着、ベゼルや「ラッキーコイン」への収納が原因です。
⑧SMOOTHING
(下で説明する)Tooledと同様、表面を滑らかに修復することですが、その手段が不明な場合に表示されます。
⑨TOOLED
傷、腐食、その他の損傷を取り除くためにコインの表面を滑らかにすること、または彫刻刀やナイフを使用して失われた細部を復元することを指します。部位によりOBV TOOLEDやREV TOOLEDで表示されます。
5)Mechanical Damage 機械的な損傷
他のコインを含む様々な物体との接触により、永久的な外傷を残すことがあります。これは通常の流通過程でも起こる可能性がありますが、何らかの工具の使用による結果の可能性もあります。以下の用語は、コインが受ける様々な形態の機械的損傷について解説します。
①BENT
言葉のとおり、曲がったコインのことです。水平にして見ると発行時にはない屈曲がある状態を示す。
②CHOPMARKED
チョップマークコインは、何年も前にそれを取り扱っていた商人たちによって、そのコインの価値の保証としてその地域ごとに特有の打刻がされている。これは特に東南アジアで流通した銀貨、その中でもトレードダラー(貿易銀)で一般的に行われてきました。
③COUNTERMARKED
カウンターマークコインは、商人や宝石商などの政府非公認の者によって打刻されています。公式の措置ではないため、損傷として扱われます。
④DAMAGED
DAMAGEDは、その損傷の種類が特定できない、または正確に規定されていないような何らかの破壊的な接触による損傷を示す包括的な用語です。その部位により、OBV DAMAGE、REV DAMAGE、RIM DAMAGE、EDGE DAMAGEのように表示されます。
⑤GRAFFITI
本来の刻印とは異なるイニシャルや他の文字等が引っ掛かれたり刻印されたりしているコインを示します。その部位によってOBV GRAFFITI、REV GRAFFITIと表示されます。
⑥IMPAIRED
プルーコインが軽い流通や取扱いのミスにより、傷や摩耗が生じているが、プルーフ面がまだ残っている状態。
⑦MOUNTED
コインにまだジュエリーアタッチメントが残っている状態を示します。
⑧MUTILATED
故意か偶然かを問わず、極端な形状の損傷を示します。
⑨SCRATCHES
非常にマイナーな性質のスクラッチはグレーディングにおいて数値化することもありますが、Details評価におけるSCRATCHESは、非常に深い傷のことを指します。
⑩SOLDERED
ジュエリーの一部として使用されたコインで結合剤が残存している状態を指します。これはNCSで除去できる場合とできない場合があります。
⑪WHEEL MARKS
コインの計量機の使用によりヘアラインや擦った後が生じた状態。その部位によりOBV WHEELMARKやREV WHEELMARKと表示されます。
6)Mint-Made Irregularities 不規則な製造
コインには時々製造時の欠陥があります。NGCでは原則として、リムクリップやラミネーションなどの軽微な欠陥があるコインには数値による評価をしません。しかし、中心がずれたコインや、間違ったプランシェなどの主要なミントエラーについては、数値による評価を付します。
①PLANCHET FLAW
コインのプランシェの欠落や剥離(分離)を示します。その部位によりOBV PLANCHET FLAW やREV PLANCHET FLAWと表示されます。
②CLIPPED PLANCHET
コインのプランシェの欠落している部分を指します。大きく欠落している部分についてはミントエラーとして数値による評価ができますが、わずかな場合はDetails評価となります。
7)Coins Requiring Conservation 保全が必要なコイン
コインにはNGCのグレーディング、そしてスラブ化に合わない表面状態のものがありますが、これは専門家によって改善できる場合があります。これらには激しく不安定な表面の付着物が含まれ、これらは時間の経過と共に、コイン全体に影響し、コインを腐食し、修復不可能な状態にします。幸いNCSではこの表面の除去と中和を専門としています。NCSによる作業が終わると、コインがNGCに送られ、その状態によって、数値による評価とDetails評価に分けられます。
①RESIDUE
NGCの鑑定者がその汚れを他で表現できない(特定できない)場合に表示します。その部位によりOBV RESIDUEとREV RESIDUEのように表示されます。これらは適切に保護することにより、腐食する前に、付着物を除去することができます。
②DIP RESIDUE
コインを化学的に洗浄(ディップ)し、変色を取り除いた後に適切に洗い流さないことで発生する色のことを指します。これによりコインが曇りまたは茶色の不自然な色になります。
③GLUE RESIDUE
その言葉のとおり接着剤の付着で、適切に除去すれば数値がつきます。その部位によりOBV GLUEとREV GLUEとして表示されます。適切に除去するためにはNCSに提出する必要があります。
④LACQUERED
コインの変色や腐食を防ぐため、過去には漆などが塗られていたことがあります。その部位によりOBV LACQUERとREV LACQUERとして表示されます。NCSによりこれは除去できる可能性があります。
⑤PVC
コインの表面に付着したPVCフィルムの物質はNGCのスラブに入れることはできません。なぜならそのままだと将来にわたりコインを損傷し続ける可能性があるからです。このようなコインは適切な保護のためNCSに送るべきです。
⑥PVC DAMAGE
プラスチックコインホルダー内の化学可塑剤に対する環境反応によって、コインが取り返しのつかないほど損傷を受けた状態を示します。ポリ塩化ビニル(PVC)は、多くの用途を持ち、広く使用されている熱可塑性樹脂です。コインの分野でもディーラー、コレクター、グレーディングサービスがコインの保管などに使用する透明なコインホルダーがそれにあたります。コインにとっても短期間の使用であれな十分安全ですが、長期間の保存には重大な危険が伴います。PVCを柔軟にするために、PVCベースから時間をかけて分離し、コインの表面に緑色のフィルムを形成する可能性のある化学可塑剤を含浸させます。未処理のままにしておくと可塑剤が空気中の水分と結合して、コインの表面を腐食する塩酸を生成します。PVCはNCSによって除去できる可能性があります。
8)Coins NGC Will Not Grade at All NGCでは鑑定不可
NGCでは、Webサイト上で鑑定できるコイン、トークン、メダルのカテゴリーをリストにしています。これらには、アメリカのほぼすべてのコイン、広範囲な世界と古代のコイン、そしてトークンとメダルのいくつかの特定のカテゴリーが含まれます。しかし、特定のタイプと年代は除外されます。どのコイン、トークン、メダルがグレーディングの対象であるかはまず、NGCのWebサイトでご確認ください。
①INELIGIBLE TYPE
その状態に関係なく、NGCが鑑定できないコイン、トークン、メダルを示します。その他、完全に判別できないもの、他の年号やミントに似せるため何らかの方法で変更されたものもグレーディングできません。
②ADDED MINTMARK
ミントマークによって価値が高くなるコインなどで、不正にミントマークを加えているようなものを示します。
③ALTERED DATE
年号によって価値が高くなるコインなどで、不正に年号を改変しているものを示します。
④ALTERED SURFACE
表面が明らかに不自然であるコインを示す一般的な用語です。このカテゴリーに分類されるコインは、コインの傷を隠すため、またはカメオのフロストやプルーフライクに似せるために塗料をつけているものなどがあります。
⑤ILLEGIBLE DATE
文字通り、年号が判読不能なコインです。正確な年号が判読できない場合、そのコインはグレーディングの対象外となります。
⑥ILLEGIBLE MINTMARK
判読不能なミントマークは、摩耗、損傷、または激しい腐食が原因である可能性がありますが、グレーディングできません。
⑦INSUFFICIENT DETAIL TO ID
これは主に古代コインに適用されますが、そのもの自体の素性が不確定なコイン、トークン、メダルにも適用されます。
⑧NOT GENUINE
レプリカ又は偽造コインのことを指します。流通していた偽造コインは通常模倣したコインと同時代に作製されたものであり、その額面通りの金銭として使用することが目的ですが、アンティークコインとしての偽造コインは、コレクターを騙すためのものであり、通常実際に流通していたよりも後の時代に作製されます。
⑨QUESTIONABLE AUTHENTICITY, AUTHENTICITY UNVERIFIABLE
これは提出されたコインが本物であるか疑わしい点があることを指しますが、真偽を確定的に決定することが不可能な場合にも適用されます。
⑩REMOVED MINTMARK
これはAdded Mintmarkとは逆に、ミントマークを削除することによりそのコインの価値を高めようとする詐欺的行為を示します。
⑪COINS NOT SUITABLE FOR CERTIFICATION
NGCでは、ひどく損傷しているためにその真偽、コインの種類等を判別できないようなコインについて、5ドルの手数料を差し引いたグレーディング費用を返還します。
一番多い「Details Grades」である「Cleaned」の記載がありませんでしたが、洗浄全般として表示されているのでしょうか。
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